【自分の変化に気づく〜心理現象に名前をつけよう】 2018/07/24

さて、前回の記事では、 普段私たちが意識している感情の裏に、自分でも気づかない"プチ感情"があり、 そのプチ感情たちに気づいてあげることで、「なんとなくモヤッとする」 「不快な感情がいつまでも消えない」などといった状況にアプローチしようという内容をご紹介しました。

今回は感情だけでなく、さらに観察する対象(気づきを向ける対象)を広げます。 そして、いかに私たちが普段自分の状態に気づいていないせいで、苦しみを増幅させ心身を痛めているかを知り、 そこから抜け出すための基本的な実践方法について理解していただければと思います。

◆「不快な感情が続いている」は思い込み◆

まずは質問です。

職場や学校で、同僚・友達が自分の陰口を言っていると知ったら、あなたはどんな反応をしますか? また、直後から数分間、心身はどのような状況でしょうか?

おそらく、「なんだと〜、あいつふざけてる!」と腹を立てたり、 「いい人だと思っていたのに陰でそんな悪口言ってるなんて」と悲しくなったり、 「陰口を言われるようなことをしたかな」と不安になったりしますよね。 相手と関係が深いほど、その事実を知ったときの苦しみの度合いは大きくなるでしょう。

感情を快・不快・どちらでもない平常心の3つで表すとするなら、不快感MAXといったところでしょうか。 しかも、その後しばらくは不快感が続きます。

この一連の感情を時間経過でグラフに表すとすると、次のようになるのではないでしょうか。

感情円グラフ

グラフが表すように、出来事から数分間は嫌な感じを引きずりながら、時間の経過とともに自然と収束していくでしょう。

しかし、 マインドフルネスSIMTの実践をしていると、実は心の動きはこのグラフのようにはなっていないということが実感できます。 つまり、不快感は持続していないのです。

「え〜いやいやそんなはずないよ、だって実際しばらくは不快だもん」って思うでしょう? では、そうではないという説明をするために、まずは「心理現象」というものについて説明します。

◆心理現象とは◆

自己洞察瞑想法(以下SIMT)の実践の中に「心理現象に名前をつける」という課題が出てきます。

心理現象というのを簡単に説明すると、心に映されるモノ・作用のことで、 感覚・思考・感情・身体反応・気分・欲求や行動など意識される全てのものと思ってください。

今回の例にあてはめて説明しましょう。 陰口を言われたときの流れ一つ一つに心理現象を()で表すとします。 すると、たとえば次のようになります。

陰口を言われているのを聞き(聴覚)、腹が立って悲しくなり(感情)、 息がつまり胸が苦しくなり全身に力が入った(身体感覚)。 なぜ陰口を言われたのか過去の出来事を思い出し(想起)、そのことについて考えていると(思考)、 涙が出そうになったので(身体感覚)、トイレにこもって泣いた(行動)。 他の人も自分の陰口を言っているかもしれないと考え(妄想)、ますます悲しく不安になり(感情)、 今日はもう帰宅したいと思った(思考)。

もちろん、普段の生活ではこのように心理現象がどのように移り変わっているかなど気づいていないことが多いので、 この一連の数分間はずーっと不快感で占められるわけですが、こうして心理現象に細かく気づくと、 自分を取り巻く状況は"不快"だけではなく、様々な状態から成り立っていることがわかるようになります。

◆自己受容と癒し◆

マインドフルネスは一般的に "今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること" というような説明がなされます。

SIMTではこれに加え、 "その目の前の体験は現れた瞬間過去のものであり変えることができないので、 受容した上で、自分や他者を苦しめない行動(価値実現の行動)をすること" が重要になります。

つまり、「気づき・観察 → 受容 → 行動」です。

(注:SIMTでは、"評価をせず"は、すべて無評価という意味ではありません。 たとえば、上記の例のような場合、辛い感情によって「もうリストカットしてしまいたい」と思考したり、 「相手を殴りたい」という思考が湧いた場合、当然これらは実行されるべきではありません。 「これらの思考が湧いた」と思考を観察するまでは"評価をせず"でよいのですが、 その後どう行動するかという局面では、「実行すれば自分(または相手)が傷つくので実行しない」 という評価・判断が入ります。 つまり、「リストカットしたい」「相手を殴りたい」と"考えてはいけない"という評価はしませんが、 そうした衝動的欲求に対して、"どういう行動に移すか"という評価・判断は入ります。 SIMTは、その評価・判断のうえでの「価値実現の行動」です。)

さて、先ほどの陰口を言われたという例に戻って考えてみましょう。

普段マインドフルではない状態では、感情に圧倒され、怒りや悲しみに支配されてしまいます。 我慢することに慣れている人だと、感情を無視したりなかったことにして、抑圧することもあるでしょう。

一方、上記で紹介したように心理現象に名前をつけることは、まさに"この瞬間の体験に意識を向け"ているわけです。

苦しい状態にじっくり向き合うと、より苦しくなりそうと思われうかもしれませんが、 心に映される心理現象をありのままに見守っていると、自然と心身が整い感情が癒されて浄化されていきます。

とはいえ、実践を始めたばかりのころは、いつもながらの思考と感情を繰り返すループ(負の連鎖)からなかなか抜け出せません。

そんなとき、 負の連鎖から抜け出し、ありのままの心理現象を観察する助けになるのが呼吸法です。 呼吸は、意識しなければ普段は忘れ去られている快でも不快でもないニュートラルな行為です。

ですから、 心理現象を観察していて思考や感情にとらわれて不快が大きくなりそうになったときは、 呼吸という柔らかで繊細な感覚に意識を向けることにより、感情の針をフラットに戻すことができるのです。

心の針が平常心ではない快か不快のどちらかに少しでも傾いたとき、呼吸法をしながら心理現象に名前をつけてみてください。 その自己受容の態度と実践が、自然と心身を癒しと安らぎの状態へ導いてくれますよ。

◆ネガティブな感情からの解放◆

本当に真剣に心理現象を観察し名前をつける作業を続けると、 上記のグラフの説明のところで「不快感は持続していない」と述べた理由がわかっていただけると思います。

陰口を言われていると知って、最初は嫌な感情が発生しますが、

@腹が立った悲しくなった(「感情」と名前づけ)

A息がつまり B胸が苦しくなり C全身に力が入った(「身体症状」と名前づけ)

Dその理由を思考し始めた(「思考」と名前づけ)

E過去のやりとりを思い出す(「想起」と名前づけ)

→陰口のことで再び感情が起きても、最初の強い感情よりは和らいでいる

というように瞬間瞬間の体験を意識していると、快でも不快でもないない状態を作りやすくなります。

上記のグラフでは数分間"不快"が持続しているのに対し、実践による変化をグラフにするとこのようになります。

感情円グラフ

これらの変化は、取り組みはじめは実感することが難しいかもしれませんが、なにも実践をしないよりは効果があります。 すぐにはうまくいかず再び嫌な感情が発生したとしても、少しの間実践で距離を置いた分だけ感情が和らぎますので、 その小さな実感を積み重ねてみてください。

継続して続けていると、それまでは苦しみの最大勢力だと思っていた怒りや悲しみの感情と同等に、 一つ一つの心理現象が、さらさらと現れては消えて次から次に移り変わっていくので、 もはや自分の心の中でなにが最大勢力かは重要ではなくなり、苦しい状態から解放されていきます。

◆最後に◆

私たちは、一日の多くの時間を思考に費やしています。

しかも、必要な思考だけではなく、その行動には関係ない思考であることも多々あります。 なにか行動をしていても(たとえば食べているとき、運転しているときなど)、 まったく関係ないことを考えているとあっという間にそれが終わっていることがありますよね。

こうした考える癖は、今回の例で取り上げたようなネガティブな出来事があったときにも、 知らず知らずのうちに繰り返されます。

とくに、自分にとって"大切な考え事"なら、何度も思い出して「思考→感情→思考→感情」 を繰り返します。

・仕事に悩んでいる場合、「今の仕事は自分にはあっていないのではないか」、「転職した方がいいのではないか」 と考え続けます。

・夫婦関係がうまくいっていない場合、「このまま結婚生活を続けるのか」、「離婚したらどうなるのか」 と考え続けます。

・子育てに不安があると、「育児がうまくいっていないのでは」、「自分はダメな親なのでは」 と考え続けます。

・就職が決まらないと、「このまま就職できないかも」、「将来どうなるのだ」、「自分に欠点があるのでは」 と考え続けます。

これらは一例ですが、こうした"大切な考え事"は、 本人は何がしかの解決に向けて有益な思考をしていると思っているのですが、 過剰に繰り返すことによって、本人も気づかないうちに脳を傷つけ、 うつ病へと発展してしまうこともあります。

また、うつ病になると、傷つけられた脳の機能が低下し、負の連鎖が起こりやすい状態になるうえに、 扁桃体(ネガティブな感情に関する脳の部位)が活発になりネガティブなものの見方・考え方が強化されますので、 ますますネガティブな「思考→感情」のループから抜け出せなくなります。

誤解のないよう申し上げておくと、例に挙げたような、仕事・夫婦関係・子育て・就職などについて、 それが"大切な考え事ではない"と言っているのではありませんよ。 自分が生活する様々な分野で、私たちは悩みながら試行錯誤して苦しい状態を解決しようとしますが、 考え悩むことが長期に渡ったり、過剰に考え続けることが、 逆に苦しい状態を増やしていることがあるかもしれないのです。

今回紹介した「心理現象に名前をつける」実践は、考える癖から抜けだすトレーニングの一つとも言えます。 自分の意識次第でいつでもどこでも取り組める実践なので、興味のある方はぜひトライしてみてください。