【ありのままの自分を知っていますか?〜自分の気持ちを知るヒント〜】 2018/05/29

質問です。普段あなたは自分の感情がどのように動いているか注意深く気づいていますか?

それに対する答えはなんですか?「はい」でしょうか。 「いつもだいたい平常心です」でしょうか。 「いつも楽しい」「よく怒る」「感情豊かです」と答える方もいるでしょうか。

自己洞察瞑想療法(以下、SIMT)の実践の中に、「感情的になったときに自分の心理現象に名前をつける」 というものがあります。 この実践をやっていると、「う〜ん、私はそんなに感情的にならない方です」とか 「感情が動くような出来事はとくに起きていません」という声が聞かれます。

"感情的"というと「怒りの感情がこみあげてくる」や「嗚咽するほど悲しんで泣く」 のように激しい喜怒哀楽のことのように思うかもしれませんが、 こういう爆発的な感情ではなくても、 私たちの心は常に"すこし快"や"すこし不快"という気づきにくい振り幅で常に感情の針が動いているものです。

◆昨日一日を振り返ってみてください◆

昨日一日を振り返ってみてください。

通勤中、人混みを歩くときや、公共交通機関での他人の乗車マナーについて気になったときの気分は? ニュースを見ていて有名人の不祥事を知った時の気持ちは? レジで支払をするとき、長蛇の列に並ばないといけなくなったら? 誰かのSNSをみてほほ笑ましくなったときは? 好きな料理が出てきたときは?

このような出来事とともに起きる感情は、あまりにも当たり前すぎる日常のプチ感情なので、 感情が動いたという認識がないかもしれません。

しかし、私たちの日常は、こういう小さな気づかない感情の連続でできています。 一日の中には様々な出来事がたくさん起きますので、質問の答えが「いつも○○」だったなら、 自分の感情に少し鈍感になっているのかもしれません。

◆プチ感情の影響◆

爆発的な感情や、そこまで激しくなくても結構大きい感情は、 実はもっと早い段階で"小さな不快"があったのに気づかないで溜めてしまった結果、 他者や自分を破壊するほどの勢力をもってしまった可能性があります。

こんな経験があるのではないでしょうか。 いつもと同じことをやっているのに、 今日に限って上司の怒りを買って「だいたいお前はいつも○○○だ」と言われたとか、 前に兄弟姉妹が同じことを言ったときは怒られなかったのに、 自分が言ったら親に怒られたとか。

こういう場合、上司や親は自分でも気づかないうちにプチ感情を溜めてしまっていると言えます。 それが噴火するタイミングで感情に触れる行為をした誰かが、 運悪くその溜まった感情の犠牲になってしまっただけです。 (もちろん、本当にミスや悪いことをして叱られることは、これとは別ですが。)

逆に、自分が感情をぶつけてしまうこともあるでしょう。 家族とのコミュニケーションの中で、いつもなら言われても平気なこと・気にならないことなのに、 今日に限ってカチンときて余計なひと言を言ってしまった…とか。

◆自分の感情に気づく◆

そこで、今回のブログでは、「いま、ここ」での自分の感情・気持ちに気づくための方法についてご紹介します。 自分がどんなときにどんな感情を起こし、どういう行動をとっているか知ることは、 ありのままの自分を理解する上でとても大切な手がかりになります。

では、その方法を説明するために、次の例を考えてみましょう。

【30代女性Mさんの場合】

Mさんは夫と二人で暮らしており、1台の車を所有しています。 この車は独身時代から夫が十数年乗っている車ですが、 最近この車の調子が悪く、修理にまとまったお金が必要になりました。

これからどうするかという話し合いの中で、現在使っている車を廃車し、 Mさんが独身時代に乗っていた車(いまはMさんの実家にある)を引き取るのはどうかという案が出ました。 そのためには、名義変更や住所変更、ナンバープレートを変えるなどの手続きを行わなければなりません。 また、現在乗っている車の廃車手続きもしなければなりません。

Mさんは急に不安になり、車を変えなければならないことが嫌になりました。

◆出来事に対する感情◆

やったことのない様々な手続きが不安で嫌になったMさん。 このときMさんは「不安で嫌」な感情になった自分をありのままに知るために、 自分がその時感じたことや考えたことを次のように円グラフで表わしました。

感情円グラフ

さらにMさんは、図のように書きだした感情の円グラフに、自分のその時の考えを書き足しました。 それを次のように説明しています。

【恐れ】…実家にいたころは親にしてもらってた手続き。何をやってよいのかさえ分からず、未知のことに対して発生した感情。

【焦り】…たくさんの書類を用意しないといけない、平日休んで役所に行かなきゃ、借りている駐車場の管理会社に電話も…など、 「あれもこれもしなければ」という感情。

【悲しい】…愛着の湧いてきた夫の車だったのに、廃車してお別れか。

【さまざまな欲求】…誰か代わりに手続きをしてくれないかな、でもお金はかけたくないな、 どうせするなら時間もお金も無駄がないよう効率よく終わらせたい、 独身のときに乗ってた私の車に早く乗りたい…など。

【投げやり】…車一つ変えるのにこんなに労力がいるなんて面倒臭い。

【罪悪感】…いまの車とお別れで悲しんでいるのに一方では自分の車が来る喜びもあり、申し訳ない気持ち。

最初はこの円グラフは「不安と嫌」で半分半分に占められていました。 でも、「不安と嫌」の裏に、別の感情や思考があることに気づくと、 「不安と嫌」が心を占める割合は小さくなり、もはや自分を苦しめる感情ではなくなりました。

◆感情は一つだけではない◆

もしMさんが丁寧に自分の感情を分析しなければ、モヤ〜ンとした不快が心にしばらく留まったでしょう。 そして、はっきりと「嫌な感情がある」と認識しなくても、不快の方に感情の針が傾いた結果、 夫と冷静に話す気がなくなり「手続きはあなたが全部やって」と夫に処理を丸投げして、 夫の不満につながったかもしれません。 もしくは判断を誤って「お金がかかっても修理すればいいんじゃない」と適切な行動ができなかったかもしれません。

感情を円グラフにして表すことは、すこし客観的に自分の状態を見ることなので、 もともとの感情と距離を置くことができます。 さらに、もとの感情を大きくすることや考え続けることも回避できます。 そして、感情の裏にあるプチ感情たちがいくつもあることに気づきやすくなり、 ありのままの感情や気持ちをより深く知ることにつながります。

私たちは出来事に対し、より強い感情だけが"その出来事への自分の感情(反応)"だと信じて印象として心に残しています。 本当はもっとたくさんの感情や思考、それに至る判断などが頭の中で目まぐるしく回転しているはずですが、 年をとるに従って自分独自の反応パターンが出来上がっていき、 感情に対する心のセンサーが鈍感になっています。

すると、「なんかいつもイライラしている人」「人の言うことを聞かない頑固な人」 「せっかちな人」というように、 出来事に対しお馴染の反応しかできなくなっていくのです。

◆感情を分解!小さくすれば勢力は弱まる◆

今回ご紹介したかった"自分の感情・気持ちに気づくための方法"とは、 上の図のように感情や思考を円グラフにしてみるというものです。

単純な作業ですが、一次感情に気づくことで自己への理解が深まり、二次感情の勢力が弱まります。 つまり今回の例では、「不安と嫌」という二次感情の前に、一次感情である「恐れ」や「焦り」があることが分かり、 モヤ〜ンとした不快を解決して平常心に戻ることができました。

普段私たちは、嫌な感情が発生するとそれを解決するために思考したり行動を起こしたりします。 たとえば、将来に漠然と「不安」を感じたときは見通しを立てて必要な準備をしたり、 自分に大丈夫だと納得させるような理由を探し対処しようとします。 また、誰かに「怒り」を感じたときは、いかにその人が間違っているか、自分が正しいかということを思考したり、 その相手を変えようと間違いを指摘したりします。

このような行為は、感情を解決しているように見えて実は増幅させています。 なぜなら、その「不安」や「怒り」のもとになっているプチ感情たちに気づいてあげず無視していますので、 いつまで経ってもプチ感情たちが癒されず、きっかけさえあれば心の奥から沸々と沸いてくるからです。

もし、自分の中に苦しみを生む感情が発生していることに気づいたら、 どっぷり思考にはまったり嫌だ嫌だと跳ねのけようとするのではなく、 まずは自分のありのままの状態に立ち返り、自分自身への理解を深めることを行いましょう。 そうすれば、今まで無視され続けていたプチ感情たちが安心して、 押しのけたり消そうと力を加えたりしなくても自然と小さくなっていきますので、 もとの感情の勢力は弱まり、心が軽くなるのを感じることができるでしょう。

◆SIMTに活かせるのか?◆

ご紹介した円グラフの方法は、SIMTの公式な取り組みではありません。 SIMTは、出来事があっているまさに瞬間瞬間に洞察を行い、同時に価値実現の行動を行っていきますので、 のんびり円グラフを作ることは少しSIMTの取り組みとは外れてしまいます。

しかし、先ほど述べたように、感情のセンサーが鈍くなっている場合は、 SIMTの実践を行っていてもなかなか自分の感情や思考をつかめない場合があります。 そんなときは、この円グラフを補助的に用いていただければと思います。 慣れてくればわざわざ円グラフを書かなくても心の中で分解して解決できるようになり、 それがSIMTの実践と結びついてきます。 自分がどう感じているか・なにを思考しているかはっきりせず、 洞察をしていてもモヤッとしていることがある場合は、ぜひ参考にしてください。 もちろん、SIMTの実践をしていない方でも、 「自分でもなぜか分からないけどちょっとしたことで不機嫌になってしまう」 「解決しようのない将来の不安について考えがやめられない」という方も、 その裏には別の感情が隠れていることがあるので、円グラフが助けになるのではないかと思います。

ちなみに、私はこの円グラフの取り組みは"本音※"の洞察にも役に立つと考えています。 (※SIMTで言う"本音"とは、執着や嫌悪、 その他のエゴイズムを含んだ心理で、 自分では気づいていないことが多いのですが、 多くの苦しみは本音によってもたらされます。 「苦しみのもと」くらいに理解してください。) それは、感情や思考を感じるセンサーが敏感になってくると、 もっと多くの細かな感情やその感情に至った判断的思考・価値観なども感じられるようになってくるからです。

たとえば、Mさんの感情の説明の中で、「あれもこれもしなければ」という焦りの感情と、 「時間もお金も無駄がないよう効率よく」という考え方は、 この例に限らずMさんにはよくある感情のパターンなのです。

実はこのMさんとは私のことなのですが(笑)、私が持っている"本音"の中に、 「物事は効率よく無駄なくすべきである」という価値基準があり、 それによって「焦りモード」のスイッチが入りやすい癖があるのです。 家事や仕事、友達とのちょっとした約束であってもスイッチが入りそうになることがあります。 これに気づかないままでいると、自分の価値観を他人に押し付けて相手を苦しめたり、 不必要な焦りで自分を苦しめることになります。

そういう本音を知って、ありのままの自分を理解し受容することによって、 「無駄が発生することもあるけど、まぁいいか」「焦る必要はないんだった」 とマイナスの感情にとらわれて自分を苦しめる思考や感情から抜け出せる (=本音を小さくしていくことができる)のです。

◆最後に◆

実は上記の感情を円グラフにする方法は、私自身がうつ病で苦しんでいた時に、 ある坐禅会でお寺の住職から教えてもらった方法です。

うつ病から回復する過程の中で、物事に対して怒りか悲しみばかりにしか反応できない時期がありました。 家族のほんの些細な言動に反応して、怒りが爆発するか、絶望して悲しむ、 そしてそんな自分に対してさらに怒りと悲しみが湧いてくる。 自分でも何がそんなに爆発的な怒りや絶望的な悲しみの原因なのか分からず、 ただただ「誰も私をわかってくれない」と思っていたのですが、 そんなとき、上記のような感情を円グラフにしてみてくださいというアドバイスをくださったわけです。

このときに身につけた感情分解作業は、その後学ぶことになるSIMTでとても役に立ちました。 SIMTのセッション2の課題に出てくる「心理現象に名前をつける」を実践するときに効果を実感したのですが、 その詳しい内容については次回のブログで紹介したいと思います。

次回をお楽しみに。